TEPS

生成AIが切り拓く新たな障碍者支援の可能性

坂村 健

INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長
TRONイネーブルウェア研究会会長


昨年のTEPSのテーマは「ロボット技術×次世代光ネットワークで障碍者を支援する」だった。ロボット技術と次世代光ネットワークをかけ合わせることにより遠隔就労が可能になるということで、一方的な「支援」だけでなく「社会に参加してもらう」ための技術の発達を考えた。実際、少子高齢化はますます進み社会の支え手が減り、高齢者や障碍者には支えられるだけでなく支える側にも回ってもらうことが喫緊の課題となっている。

しかし、人間の支える手が必要な支援には限界があり、一人が一人を支援して一人分の仕事をするのでは、社会貢献としての収支はプラスにならない。従来はそこに限界があり、支援の自動化が重要となるが、去年末に登場した生成AIを含むAI技術の進歩は、人間の介在を必須としたような分野でも自動化を可能にしつつある。

例えば、スマートフォンを使い遠隔でカメラ映像を元に視覚障碍者に周辺状況を的確に伝えるボランティア活動。その場にいなくても、一人で多くの人を助けられるという意味ではICTの進歩による素晴らしい成果だが、どうしても人による認識を必要とした。それが、AIの進歩によりシーンアナリシス(情景解析)した結果を的確な表現でテキスト化して伝えられるようになったことで、スマートフォンから24時間気兼ねなく使えるサービスを実現できるようになる。その挑戦自身は以前からあったが、その要約が人間ボランティアと遜色ないものになったのは、まさに最近のマルチモーダルな生成AIによって可能になった進歩だ。

もちろんより的確なアドバイスができるようにするには、センサーによるリアルタイムデータから、周辺のマップデータや公共交通状況、天気の予報などのオープンデータまで多くのデータが必要になる。また、それらをクラウドの高度なAIにより処理し、瞬時に返すことが求められるため、次世代光ネットワークへの期待はより大きいものとなる。逆にそのような環境が実現できれば、視覚や聴覚に障碍があっても、常に最適化された活動が可能になる。車いすも自動運転化しロボットによる最適化した介助も可能になる。

新しい技術により今まで社会に出にくかった人の社会参加が容易になることは、少子高齢化に苦しむ日本にとって大きな可能性である。本シンポジウムでは、そのような将来への期待と、そのために解決すべき課題と可能性について語りたいと考えている。


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